動植物の生態調査員であり、動植物翻訳家の釜屋憲彦氏による新連載。人間の悩みも、動植物の手にかかれば、小さなこと。まずは連載に向けて、プロローグ。
私は幼少から生物のいきざまに興味を抱いてきました。生き物と観察を通じて向き合い続けていると、「悩ましい局面」が必ず訪れる。そこで彼らは数ある選択肢の中からしばしば思いもよらない行動をとるのです。実にいさぎよく、正確に、時にひどくさえない、間の抜けたかたちで。こんな瞬間、瞬間のふるまいこそ、不思議で面白い。彼らはどんなことがあろうとも、ひたむきに今の困難を解決しようとし、自ら未来を拓いていこうとします。その姿勢には、我々が何かにつまずいたときに「世界をどんなふうに見ればよいか」、あるいは「どんなふうにふるまえばよいか」について、図らずも重要なヒントをくれるのではないかと思うのです。
では、もしもある生物に我々の悩みを聞いてもらったなら、いったいどんな回答が返ってくるだろう? そんな妄想からこのコーナーは立ち上がりました。なるべくお悩みの回答者にふさわしい動植物に私が会いに行って、通訳を試み、真面目に答えてまいります。どんな回答がかえってくるでしょうか?もちろん、私にも予想がつきません。何より、読者の皆さんに何か少しでも気づきがありますように。
釜屋憲彦
1988年島根県松江市生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科認知科学分野修了。森岡書店の書店員を経て独立。現在、動植物の生態調査員として働く傍ら、生物が独自に体験する世界(環世界)をテーマに研究、執筆活動を行なっている。
0コメント