ワインの恋文vol.3 Dear ウディ・アレン

その一本になるまでに、ワインはさまざまな物語を含む。そんなワインに感情をのせてあの人へ届けたい。ワイン スタイリスト・大野明日香さんによる、ワインに込める心の恋文。

ラディコン リボッラジャッラ

イタリア フリウリ /ヴェネツィアジューリア

大地と環境に最大限の敬意を払った、自然なワインを造ることが哲学のラディコン 。

こちらは無農薬のリボッラ・ジャッラを使用した白ワイン。

しっかりとしたボディ感、落ち着いたタンニンは感じられるものの、

飲み心地は非常に良く、ナチュラルな果実味が詰まった心地よい味わいです。


dear ウディ・アレン


 イヴが創った世界に私たちは住まわされていた。混乱を許さない調和の世界。巨大な威厳。さながら氷の宮殿だった。


 ウディ・アレン監督映画初期作品『インテリア』ある家族の物語は、冒頭、父親の独白で始まる。私の事務所屋号である「officeインテリア」の“インテリア”もこの映画タイトルからもらった。主人公家族の母親がインテリアデザイナーであることから、その息苦しいほどに整えられた絵画のように美しいインテリアも必見の映画である。

 そもそもワインで恋文を書いているわけなので、今回は是非ウディ・アレンその人に飲んでもらいたいワインを選んでみた。

 イタリアはフリウリ州のラディコン リボラジャッラ。

 ここ最近、ワインをお好きな方なら聞いたことあるのではないかと思う、「オレンジワイン」と呼ばれているカテゴリー。白ワインでありながら、無色透明ではなく、オレンジ色というか琥珀色、ロゼでも赤でも白でもないワインであることからいつからか(所以は諸説あり)オレンジワインと呼ばれるように。味わいは白ワインに比べると果実味や渋みなどの複雑さを感じられるそのワイン。このラディコンでオレンジワインを知る人も多いはず。

 ウディは幼少期母親とうまくいかなかったために精神的に不安定なところがあるとされている(ユダヤ人であることから迫害された過去も影響しているとも)。たしかに作品の多くにそうした情緒不安定的な内容が見られるし、世界に対する不信感、不安感、批判皮肉盛りだくさんだ。もちろんそのラディカルな批判精神、ひねくれ者、ユーモアも大好きなところなのだけれど、私がウディ・アレンの作品のどこに最大に惹かれるかというとその圧倒的に美しい世界観なのである。コメディ作品から、恋愛映画、シリアスな家族物、人間ドラマ作品ジャンルは多岐に渡り、〇〇映画の、というジャンル分けされることから逃げているかのように、たくさんの素晴らしい作品があるのだけれど、どの作品にも共通して言えるのは「センスの良さ」である。衣装、インテリア、セリフ、音楽、全てにおいてセンスが良い。どんな意地悪でお下劣なセリフも、反するかのように整った美しい映像があると品位すら漂う。

 ウディの作品は数々の賞を受賞しているし、世界が彼を認め、賞賛しているのだけれど、私にはいまだ、御年83才の映画監督であるウディ・アレンのことが、いつも満たされない心を抱えて膝を抱える子供のように思えるのだ。

 そんないつまでも少年のようなウディ・アレンに、恋文がわりに私はラディコンを送りたい。なんの説明もしない、ただ味わってほしい。好きなジャズのレコードでも聴きながら、ゆっくりとこの夕焼けみたいな色したワインを。

 ラディコンは、様々な革新をワイン業界にもたらしている。ワインの通常ボトルサイズ750mlではなく、500mlと1lの2サイズでリリース。ボトルネックがとても細い特殊ボトルなのも特徴的で、それは良質な自然素材のコルクの使用量を減らすためだそうだ。そもそも白ワイン用の葡萄品種であるリボラジャッラで、赤ワインと同じ製法で作ってなにが悪いんだ?と言わんばかりの個性的なワインなのだ。

 なにからも、誰からも縛られる必要なんかどこにもなく、自分が求める世界がないなら自分で作ればいい。異端児、変わり者、ひねくれ者。そんな他人の目なんか気にしなくていいよ、とささやきかけるかのようなワイン。世界中があなたを否定しても、私はいつもあなたの味方だよとささやきかけるお母さんのように。

 世界が認めても、母親に認められなかったことに人はいつまでも固執してしまう。それから解き放たれるべきなのか、そうじゃないのか、苦悩する作品が素晴らしいほど、私は時々わからなくなる。


こころのあて先:ウディ・アレン

アメリカ合衆国の映画監督、俳優、脚本家、小説家、クラリネット奏者。1965年『何かいいことないか子猫チャン』で脚本兼出演者として映画デビュー。66年「What's Up, Tiger Lily?」で初監督。以降、アカデミー賞に史上最多ノミネートされ、監督賞を1度、脚本賞を3度受賞している。


小脇の一本:『インテリア』

『インテリア』 (Interiors) は、ウディ・アレン監督・脚本による1978年のアメリカ合衆国の映画である。ちなみに私達(放送作家大野ケイスケと私)の事務所名、「officeインテリア」もウディアレンの映画、「インテリア」から。出会った頃に大野をウディ・アレンに似ているな、と思った。ひねくれ者だけど会話のセンスが抜群で、変な人だなあと。今もあんまり変わらないけど。

大野明日香

島根県松江市出身。日本のワイン、ヴァンナチュールを中心に扱うワインスタイリスト。映像、音楽関連の仕事を経て、いくつかのワインバーに勤務後、ワイン スタイリストとして独立。ワイン関連のイベントの主催やプロデュース、ケータリングなどを行う。「日本ワインと手仕事の旅」(光文社)沼津の雑貨店halの店主 後藤由紀子さんとの共著がある。

プロフィール写真:馬場わかな

gotta

いまここを愉快にするための、ウェブメディアです。

0コメント

  • 1000 / 1000