某劇団の宣伝マン・浅生博一氏の、美味しい店の美味しい人案内。
芸能という特殊な仕事の裏側には、美味しい人が作る、美味しい店がありました。
「続いている飲食店は、料理が“うまい”のはあたりまえ。
問題は、その店を作っている人も”うまい”かどうか」。
そんな視点で選ばれた、「浅生の名店」をご案内。
撮影:下村しのぶ
no.1 源兵衛 (東京・早稲田 居酒屋) 1/2
この店に初めて来たのは、今から18年前。まだ大学に通っていた頃だ。20歳。当時、アルバイトをしていた編集プロダクションの先輩社員が連れてきてくれた。彼もこの店の常連だった。暖簾をくぐるとカウンターの向こうから「あらKくん、いらっしゃい」。女将さんの声が届く。テーブル席で賑わう客もいれば、カウンター席で話し込む客、一人の客もいる。雑踏が心地よい。僕が求めていた居酒屋だ、と思った。
常連の先輩が連れてきてくれたということもあって、大女将と意気投合。僕が卒業論文で、美空ひばりをテーマに研究しているというと、大女将は美空ひばりのお母さんと同郷ということで盛り上がったのだった。
創業は昭和元年。この辺りは源兵衛村と呼ばれていた地域で、店の名を「源兵衛」としたという。表の看板に「シュウマイ」「焼き鳥」とあるが、それはこの店を始めた2代目がはじめた味。僕ももちろん、そこから頼む。
オムライスやデミカツといった洋食から、刺身まである。実は3代目が洋食店で修行、4代目(現在の若)が日本料理屋で修行していたことから、メニューが拡がっている。この場所で代々の味を守りつつ、発展させているのが面白い。
初めてきた日から、ことあるごとに世話になり、大学を卒業後、最初の会社に入って、はじめて仕事関係者を連れていったのも源兵衛だった。
タレントのマネージメントをしていた僕にとって、各メディアの関係者と信頼関係を築くことは、大事な仕事のひとつであった。相手の腹の中を見極め、探り、こちらも探られてはじめて磨かれるのが人間関係。むろん、会議室のみでできることではなく、胸襟を開いて話すために、どこかへお連れするのも仕事のうち。はじめて「この人とは腹を割って話したい」、そう思える人に出会った時、そうだ、と思って連れてきたのがここだった。
早稲田大学に近いという場所柄、昔から教授陣、学生が集い、OB、OGも通う。代々、受け入れてきた面倒見の良さ、懐の深さは店に入れば漂ってくる。暖簾をくぐればそれだけで、相手に胸を開く意思表示となる。
ー続きます。ー
源兵衛
東京都新宿区西早稲田2-9-13
16:00~24:00(毎月3・13・23定休)
浅生博一
1980年、東京生まれ。大学卒業後、株式会社田辺エージェンシー入社。制作部において、女優、タレント、モデルのマネージメント業務を行う。2012年株式会社ヴィレッヂに入社。劇団☆新感線の公演や劇団全体の宣伝ディレクションをはじめ、映像や舞台の制作、落語、長唄といった古典芸能などの興行のプロデュースもしている。
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