自由が丘でcafeイカニカを営む、元音楽プロデューサーの平井康二氏による連載。音楽もまた、出会うもの。
きょうの曲:ねえ、彗星/寺尾紗穂
星の話。
日常的に夜空を見上げ、星を見るという習慣は、ない。よく知られた星座であっても、星と星を線で結び、その絵柄を想像することも出来ない。それなのに、たまに雑誌の星占いのページを読んでみたり、同じ星座の人に出会うとシンパシーを感じたりするから勝手なものだ。
星に関する話は、どこかロマンチックだ。遥か遠い夜空の星に思いを馳せ、自らの恋や友情や家族の営みと、星たちの運行とを照らし合わせて、運命のようなものを読み取ろうとする。そして、その結果が良くても悪くても素直に受け入れる心構えがあるところがまた良い。広大な宇宙の営みに、ケチをつけるなんておこがましいと思うのだろうか。きちんと星の運行を捉えながら、夜空を見上げ、明日の我が身や大切な人の未来を読み取ることが出来たなら素敵だ。その為に、まずは、基本的な星座の形を覚えるところからはじめるべきか。
この『ねぇ、彗星』は、旅を続ける彗星を擬人化した歌詞が愛らしい一曲で、いまから十年くらい前に僕も制作に関わったもの。作者の寺尾紗穂は、物書きとしても優れた才能を持っていて、この曲に関して『二つの彗星』(「彗星の孤独」所収。スタンドブックス刊)という文章を発表している。ひとつの楽曲に出会って、それをどう聴いて、どう解釈するかは、各々個人が自らの体験や日々の暮らしと重ね合わせて自由に楽しめば良いのだけれど、それとは別に、『ねぇ、彗星』を『二つの彗星』を読みながら聴くことをお勧めしたい。文章の内容を詳細に紹介するのは、ここでは避けるけれども、亡き父に寄せて、という副題がつけられていることだけは、お伝えしておこうか。音楽と文章が見事に呼応しあって、それぞれの作品をより深く味わう体験が出来る。そして、今よりも上手に、星空を見上げる事が出来るようになる気がしてくる。
平井康二(cafeイカニカ オーナー)
1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、音楽出版社、自主レーベル主宰など、約20年に渡り、音楽業界にて仕事をする。2009年、cafeイカニカをオープン。現在に至る。
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