自由が丘でcafeイカニカを営む、元音楽プロデューサーの平井康二氏による連載。音楽もまた、出会うもの。
きょうの曲:Love, Love, Love/Donny Hathaway
なに?もう一回言って?
と、よく妻に聞き返される。その度に、ちょっと凹む。理由はわかっている。僕の声が聞き取りづらいから。くぐもっていて明瞭ではないから。一方、妻の声はどこまでも届く。大勢で会話をしていても妻の発言だけは、はっきりとみんなに届く。つまりは、大衆を扇動するのに、うってつけの声ということ。指導者に向いている。声の質ばかりは、ある程度生まれ持ったもの。鍛錬で滑舌や発声が良くなったりはするけれどもね。それは、ヴォーカリストにも当然言えることで、練習して上手くなっても声の質や個性までもは基本、変わらない。誰とは言わないけれど、上手いけれど印象に残らない歌声の歌い手はたくさんいる。そういう人は、当然、個性が薄いからオリジナルのヒットに恵まれず、必然的にカバー作品が多くなってきたりしてね。個性があって上手いと売れる。でも、好き嫌いも生まれる。これは仕方がないこと。
この人の声は、僕は大好き。Donny Hathaway。嫌いだという人がいたら話が聞きたい。聴いていて自分の喉のあたりが気持ちよくなる。自分が歌っているわけでもないのに、自らのくぐもった声を忘れる。同じ理由で、NAT KING COLEとaikoも好き。声を聴くことで、肉体的な快感が得られるのだから、ついつい手が伸びる。歌詞にグッとくるとか、リズムアレンジがカッコいいとか、そういう音楽の楽しみ方を遥かに凌駕してしまう。
なに?もう一回言って?
と言われて、ちょっと凹んだら、DannyかNATかaikoを聴いて気を紛らわすのだ。
Love, Love, Love/Donny Hathaway
平井康二(cafeイカニカ オーナー)
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