某劇団の宣伝マン・浅生博一氏の、美味しい店の美味しい人案内。
芸能という特殊な仕事の裏側には、美味しい人が作る、美味しい店がありました。
「続いている飲食店は、料理が“うまい”のはあたりまえ。
問題は、その店を作っている人も”うまい”かどうか」。
そんな視点で選ばれた、「浅生の名店」をご案内。
撮影:池村隆司
no.2 EMON(えもん)千駄ヶ谷本店
(東京・千駄ヶ谷 もつ鍋と創作料理) 2/2
「もつ鍋も火を入れてから、食べごろがあるんですよ。説明はしますけど、みんな、飲み始めると、鍋を放りっぱなしになっちゃうでしょ。本当は最高の状態で食べてほしいから、スタッフには目を配るように言っています。大忙しになるとなかなか手が回らないこともありますがね」。そう話しながら、今日は特別に料理人の金子さんが火の通りを見てくれることになった。
もつ鍋は醤油ベースと味噌ベースの二種類。今宵は味噌。白味噌と黒味噌を合わせたオリジナルを使っているという。
上にのせたニラに火が通った頃、熱いうちに、もつが柔らかいうちに食べる。
新鮮で雑味のないもつ。「実はもつが苦手、という人も、うちのは食べられるって人が多いですね」と金子さん。
とはいえ、もつ鍋は好き嫌いがあるのも確かだ。だから誰でも連れてこられる店ではない。食事を兼ねた打ち合わせは、僕にとってはもてなしでもあるわけで、相手にとってもおいしくてはじめて成立する。自分にとってうまい店がすべてにおいて都合がいいわけではないのだ。僕にとって「おいしい人」が、ただの「いい人」ではないように。厳しく叱られたって、かえって通ってしまう店があるように。
ただ……。ある意味、この店は「いい癖」があるからこそ、「もつ鍋は好きですか?」と聞いてからお連れして、様々な料理をモリモリ食べて、もつ鍋の締めまでペロリと食べる姿を見たときは、この人とは面白い仕事ができそうだと思うのは確かだ。
この店には最後にひとつ、おすすめがある。熱々のアップルパイ、バニラアイス添え。
ある日、すべての食事を食べたあと、閉店後も甘えて酒を飲んでいたら、「アップルパイ食べてって〜」とママが言った。厨房は「すみません、火を落としてしまいました」と、それはもちろん冷や汗をかく。
「大丈夫、大丈夫。火はすぐにつくから!」
僕も、こうありたいと思った。
EMON千駄ヶ谷本店
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-13-20 第七宮廷マンション1F
[月~金]11:30~15:00 18:00~24:00 [土・祝]17:30~23:00
浅生博一
1980年、東京生まれ。大学卒業後、株式会社田辺エージェンシー入社。制作部において、女優、タレント、モデルのマネージメント業務を行う。2012年株式会社ヴィレッヂに入社。劇団☆新感線の公演や劇団全体の宣伝ディレクションをはじめ、映像や舞台の制作、落語、長唄といった古典芸能などの興行のプロデュースもしている。
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