人が“うまい” ゴッタな名店 vol.3

某劇団の宣伝マン・浅生博一氏の、美味しい店の美味しい人案内。

芸能という特殊な仕事の裏側には、美味しい人が作る、美味しい店がありました。

「続いている飲食店は、料理が“うまい”のはあたりまえ。

問題は、その店を作っている人も”うまい”かどうか」。

そんな視点で選ばれた、「浅生の名店」をご案内。

撮影:池村隆司

no.2 EMON(えもん)千駄ヶ谷本店 

(東京・千駄ヶ谷 もつ鍋と創作料理)  1/2

 何かの巡り合わせで出会う店もある。ここ「EMON(えもん)」もそうだ。およそ10年前、前職の芸能事務所に勤めていた頃、帰り道にこの店があった。看板に「もつ鍋」とある、でも店構えがいわゆるもつ鍋屋とは違った雰囲気である。ずっと気になりながらも通り過ぎていた。でもある日の帰り道、当時の同僚と入ってみることにした。

 メシがうまい。そして、なにがということは説明がつかないが、そこにいて「ラク」だった。日を置かずにまた訪ね、取引先との打ち合わせで、席を予約するようになった。座る席は決まってカウンター。であれば自然と厨房の料理人や店のオーナーであるママとも話すようになる。

 ここはオーナーの鈴木夫妻が15年前に、料理人の金子氏とともに開いた店だ。料理好きのママの観点から開いた店だけあって、看板はもつ鍋だが、新鮮な野菜や、肉魚を生かした創作料理が豊富にある。ここにきてまず食べるのが人参とジャコのパリパリサラダ。ドレッシングも人参をすりおろして作っている。

ママ曰く、「野菜嫌いの人のために作った」らしい。こんもりと盛られた千切り人参を崩して、人参レッシングの土手になじませて食べる。

気づいたら、丸ごと一本、人参を食べていた。となるわけだ。

都内では数少ない鯨卸の専門店から仕入れている、新鮮な鯨の刺身。

漬物ピザ。薄く伸ばしたピザ生地に、漬物とチーズ、刻み大葉がのる。この店で長く働く女性スタッフが考案したものだ。40年近く食の世界で腕をふるってきた料理人の料理と、日常生活の目線で提案される女性目線の料理。それが和モダンで落ち着いた店内に調和する。その絶妙なバランスが「ラクさ」の理由なのかもしれない。

 今でこそ、ここは副都心線の北参道駅から歩いてすぐの場所にあるが、開店当時は副都心線の開業前。陸の孤島だったそうだ。代々木、原宿、千駄ヶ谷から同じくらいの距離にあるとはいえ、周りはオフィス、住宅街。「まあでも、競合がいなかったのがかえってよかったんでしょうね」と料理人の金子さんは言う。地元の人に愛され、育ったと感謝する。

目当ての創作料理を少しずつ食した後は、もつ鍋。今宵は料理人の金子さんが鍋奉行をしてくれることになった。


―続きますー


EMON千駄ヶ谷本店

東京都渋谷区千駄ヶ谷3-13-20 第七宮廷マンション1F

[月~金]11:30~15:00 18:00~24:00 [土・祝]17:30~23:00


浅生博一 

1980年、東京生まれ。大学卒業後、株式会社田辺エージェンシー入社。制作部において、女優、タレント、モデルのマネージメント業務を行う。2012年株式会社ヴィレッヂに入社。劇団☆新感線の公演や劇団全体の宣伝ディレクションをはじめ、映像や舞台の制作、落語、長唄といった古典芸能などの興行のプロデュースもしている。

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