きょうは、なに聴く?vol.12

自由が丘でcafeイカニカを営む、元音楽プロデューサーの平井康二氏による連載。音楽もまた、出会うもの。

きょうの曲:Golden Ratio/Ben Watt

 流行りに敏感なAさんは、このあいだまでグルテンフリーについて熱弁をふるっていたのだけれど、今は、乱立しているこだわりの食パン屋の中で、本当に美味しいのはどこか、を語っている。なんか、違う気がするけど、まぁ、いい。流行り、を第一に考えているという意味では、ブレはない。少し前にはフワフワのパンケーキを頬張っていただろうし、さらに前には、エッグベネディクトなんかも詳しかったに違いない。次から次へとやってくる流行の波をすいすいと乗りこなしているのだ。すごい才能。

 音楽にも流行り廃りが当然あって、演者側もうまく乗りこなす人とそうでもない人とに分かれる。そうでもない人をディスるつもりはないので、見事に乗りこなす人の話を。

everything but the girl、名前からしてセンスが良い。イギリスを代表する男女のデュオ。メンバーは、Tracy ThornとBen Watt。八十年代に、いわゆるネオアオなんて呼ばれていたっけ。その後のサウンドの変遷が凄い。AORをやりに本場西海岸に行ったり、四つ打ちハウスをやったり、さらにはドラムンベースまで。そして、そのどれもがお手本のように見事に仕上がっていた。サウンドメイクの頭脳は、Ben Wattだ。Tracyの歌声は他にはない中性的な魅力があり、人気の要因の多くを担っていたけれど、Ben Wattの果たした役割も相当に大きい。そのBenが2014年にソロで発表したのがこれ。一通り流行りをやり尽くし、今はこれ、という感じなのだろうか。もはや、流行りかどうか、という視点からは離れているのだろうけれど、なんだかやはりセンスが良い。それとも、僕が分からないだけで流行の波を捉えているか?  などと深読みをしてしまう。ポピュラーミュージックは、流行を追うものだけれど、その中にもセンスの良し悪しは確実にある。そして、センスが良いものは流行りが廃れた後でも残っていたりする。それが分かるのは、流行りが終わり、ある程度時間が経過してからだけど、渦中にいる時でも、なんとなくわかるよね、これは、いまだけだね、残らないだろうなぁ、とかいうのは。

 さて、食パン屋に行列を作るのはいつまで続くのか?夏になったら、横でカキ氷とかもやっていたりしないか、タピオカとかをトッピングしたりしてね、もはや何屋か分からない。


Golden Ratio/Ben Watt

平井康二(cafeイカニカ オーナー)


1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、音楽出版社、自主レーベル主宰など、約20年に渡り、音楽業界にて仕事をする。2009年、cafeイカニカをオープン。現在に至る。

http://www.ikanika.com/cafe/top/

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