自由が丘でcafeイカニカを営む、元音楽プロデューサーの平井康二氏による連載。音楽もまた、出会うもの。
きょうの曲:Sweet Thing / Rufus & Chaka Khan
「ウィンウィン」って言葉、よく耳にするようになったのはいつくらいからだろう。使ったことないなぁ、ウィンウィン。なんだか、恥ずかしいなぁ、ウィンウィン。
会社勤めとかしていれば、使うシーンがあるのだろうか。「ウィンウィンな感じでやりましょうよ」とか。違うか。あと「アジェンダ」とか「タスク」。言ってみたいなぁ「今日のアジェンダは、サードクオーターのタスクの確認です」なんてね。ぎりぎり「モチベーション」は、言えるか。「それ、モチベーション下がるなぁ」とか。あぁ、でも、なんか恥ずかしいなぁ、ムズムズする。「それは、やる気の問題でしょ、やる気、モチベーションとか言ってんじゃないよ!」て言いたくなるなぁ、やっぱり。耳慣れないカタカナは、抵抗あるよね。意味合いを曖昧にしてる感じもするし。
「それは、チャカカーンの曲だよ」
「ちゃかかーん、ってなんすか?」
「チャカカーンは、チャカカーンだよ、知らないの?」
「ちゃか?かーん?なんかの音っすか?」
「名前だよ」
「楽器の?」
「人の名前」
という会話があったかどうかは知りませんが、全くChaka khanのことを知らなければ、ちゃかかーん、なんて口にすることもないし、なんのことだかわからないかもね。なんかちょっと、日本語を使う我々にとっては不思議な響き、ウィンウィンくらい不思議。それ真面目に言っている?って顔したくなる。「チャカチャカチャカカーンチャカカーン」という印象的なラップではじまる1984年の『I feel for you』で、はじめてその名前を聞いたという人もいるかもしれませんが、この『SWEET THING』は、75年にまだ二十歳そこそこの彼女がRufusというバンドのヴォーカリストとして残した名曲。イントロのギターのフレーズとか気が利いてます。数多くのシンガーがカバーしたり、サンプリングしたりしてますから、それを耳にしたことかあるかもですね。かなり上質なソウルの名曲ですから「あたし、ちゃかかーんすき」と口にしても大丈夫です、恥ずかしくはないのです。むしろイケてる。「ちゃかかーん?」という反応をした人を逆に「知らないの?もしかして」いう顔で見てあげましょう。
で、「ウィンウィン」。僕は、やっぱりなんか恥ずかしくて、言えない。目の前で誰かが口にしたら、ゲッ、なんだこいつ、って顔してしまいそう。言葉の意味合いも、なんか、嘘臭いって感じだよなぁ。敗者のいない勝ちってあるのか?それを本当にウィンと言っていいのか?あるいは、どこかで誰かが負けてるんじゃないのか?都合よくその姿が見えないだけでね、ウィンウィン。
平井康二(cafeイカニカ オーナー)
1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、音楽出版社、自主レーベル主宰など、約20年に渡り、音楽業界にて仕事をする。2009年、cafeイカニカをオープン。現在に至る。
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