自由が丘でcafeイカニカを営む、元音楽プロデューサーの平井康二氏による連載。音楽もまた、出会うもの。
きょうの曲:海岸線/サイトウタクヤ
朝晩が肌寒くなって、本格的に季節が秋冬に入れ替わってくると、やっぱり夏がいいなぁ、夏にもっと楽しんでおくべきだったなぁ、なんて考えがち。でも、今年みたいに異常に暑い夏だと、そういう感じも薄れてくる。あれは、恋しくなる夏ではない、夏とは呼びたくない。夏はもっと、ただハッピーに、ウキウキと過ごす季節、というイメージ。少なくとも僕らが子供の時はそうでした。熱中症が危険だから外で遊んではいけない、なんて言われなかった。もう、夏以外の名称を与えたほうがいい、あの季節には。だから、せめて音楽だけでも、あの素敵だった夏を感じるものを聴いて過ごしたい。夏に夏の音楽を聴くのもいいのだけれど、どちらかと言うと、過ぎ去った夏を思い出しながら、ウィンターシーズンに夏の音楽を聴く方が僕は好き。山ほどある夏の歌の中で、さて、どれを聴くか。できれば少し切ない思い出なんかと結びついている方が理想的。みなさんが、どのくらいロマンチックな夏の日々を送って来たのかは、わかりませんが、夏を振り返る音楽を聴く時くらいは、恥ずかしがらずに、思い出に浸りましょう。
で、僕はこれにします。サイトウタクヤの『海岸線』。2005年だったかな、これを録ったのは。(実はこれ、音楽の仕事をしていた時にプロデューサーとして関わった曲でして)これにまつわる思い出は、僕の中では二重構造になっています。録音していた時は、学生時代に友達と過ごした夏をなんとなく思い出したりしていて、今聴くとそんなことを思って録音していた自分を思い出したりするので、ダブルで思い出がランダムに蘇って来るのです。だから、単純に夏の思い出の曲、ってわけではないですが、遠い夏と今より少し若かった自分の姿を思い出して、胸のね、この辺りが、キュン、とするんです。幾つになってもこういう感覚はなくならないんですね。
「懐かしい君と新しくなった君がいた」という歌詞は、夏特有のもの。いわゆる夏の成長物語。夏の終わりに大人びて見えた同級生の女の子の姿は、多くの男子に共通する記憶。逆に、女子にはそういうものがあるんでしょうか?男子は相変わらず子供ね、なんていう。
さぁ、次の夏まで、ずいぶんと時間はあるので、夏の思い出に浸る時間を作ってみてはいかがしょうか。で、あなたはなに聴く?
平井康二(cafeイカニカ オーナー)
1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、音楽出版社、自主レーベル主宰など、約20年に渡り、音楽業界にて仕事をする。2009年、cafeイカニカをオープン。現在に至る。
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