自由が丘でcafeイカニカを営む、元音楽プロデューサーの平井康二氏による連載。音楽もまた、出会うもの。
きょうの曲:Her Town Too/James Taylor&J.D.Souther
他人のiPhoneとかタブレットのプレイリストって気になります。
「センスのいいシャツを着た彼が、このプレイリストかぁ」とか「あの地味な女の子が、これ?!」なんてね。なにを聴こうが勝手といえば勝手なんですが、なんか見てはいけないものを見てしまったような空気にならないようにしたいものです。でも、他人に見せても恥ずかしくないプレイリスト、って以外と難しい気がします。僕の場合、「今、それ聴いてんだぁ」って言われそうなのが、この『Her Town Too』。
僕には、一つ上の兄がいて、彼は中学時代からアメリカ西海岸の音楽が好きで、よく隣の部屋からイーグルスやJDサウザーかなんかが聴こえてきました。そのうちの一曲がこれ。当時の僕は、盛り上がり始めていた80年代の日本のロックに夢中だったので、西海岸の音楽には見向きもしませんでした。
音楽との出会いには、様々な道筋があって、どのタイミングで何を聴くかは人それぞれですが、僕のこの曲との再会は今から十年くらい前。昔、兄の部屋から聴こえてきていた耳馴染みのある曲であったということ以上に、その時の自分にフィットしていて、この上なく心地よかったのを覚えています。歳を重ねて色んな音楽を聴いていく中で、やっぱり通る道のようなものがあって、僕にとってのその一つがジェームステイラーだったのではと、今では感じています。
兄が何十年も前に聴き込んでいたこの曲を、今、僕が聴き込んでいる。そういう出会いのタイミングというのがそれぞれにあって、なにが自分にとってのマスターピースになるのかは、わからないものです。でも、そこにはやはり、作品として経年変化に耐えうるものだったという大前提があることも忘れてはなりません。聴くべきタイミングで聴かないと、懐かしさというフィルターを通さないと恥ずかしくて聴けなくなるものもありますから。むしろそういう曲の方が多いのかもしれません。
兄が今、僕のプレイリストを見て「えっ、今それ聴いてんだぁ、へぇ」とか言ったら「でも、今聴いても、よくできてるよ、これは。で、兄貴のプレイリストも見せてよ」なんて、偉そうに切り返しをしてみようかと思っています。どうしよう、見てはいけないようなプレイリストだったら、、、。あなたのプレイリストは大丈夫?
平井康二(cafeイカニカ オーナー)
0コメント